9.言わなくてよかった(Dorothy Little Happy「STARTING OVER」を読む)

――――苦しくたって そばにいたい
※歌詞カードを読みながら考える私の勝手な想像です。ちょっと何言ってるかわかんない!、って方はお手数ですがよろしければ1曲目の記事からお読みください♪


「どこか連れていって」にて最高に高まった「あなた」へのはじけそうな気持ち。
それは、「あなた」と“あの子”が主役の登場人物になってしまった夜の駅のシーンとの遭遇によって終わりを迎える。

“偶然みたの夜の改札で あの子とあなた 手をつなぎ歩いてた エスカレーターで あぁ キスをした”

主人公は見てしまった。「あなた」への想いを伝える前に…言わなくてよかった…


どこか連れていって”という主人公の願い、ドライブ、2人だけの世界、星空を見つめるロマンティックな景色のイメージ…それらは、あまりに日常的な駅のワンシーンによって打ち砕かれてしまった。

いま、まさに、「あなた」への想いを抑えられないくらい胸が高鳴っていた、「あなた」とのストーリーを描けると思っていた主人公は、“あの子”と「あなた」のストーリーの傍観者になってしまった、そんな彼女に、再び現実がのしかかる。

「ストーリー」の「君」、「どこか連れていって」の「あなた」に対して、主人公が抱いていた確信めいた期待は、ただの幻想にすぎなかった。「あなた」の“無邪気さ”に自分は期待をさせられていただけだったのだ。

「ストーリー」では
何もことばにしなくたって目が合えばわかってたんだ”
と感じていたし、この曲では
“きっとそうだって あなたもそうだって 目が合うたびに思ってた”。

磯貝サイモン氏、坂本サトル氏、2人の作家の歌詞、これらはフレーズだけだとほとんど同じ意味に見えるし、両方とも過去形だが、前者はこれからの希望が感じられ、後者は「言わなくてよかった」過去の出来事において、自らを嘲笑すらしているように感じる。



“「命賭けても守りたいものがある」”そんなあなたの言葉は自分に向けられたものではなかった。

“はしゃいでいた自分 おかしくて涙がでちゃうよ”と、“言わなくてよかった”んだと、「あなた」への感情の高ぶりに、しばらく忘れていた“聞き分けのいい自分”を思い出した。

聞き分けのいい自分、それは「COLD BLUE」で過去に強い気持ちで求めながらも“想い出に変わるまで”と諦めていた自分のことかもしれない。

しかし、ここまで来た主人公は、過去の自分を乗り越えようとしていた。
彼女はひとつの思いを確かめた。
それは、

“苦しくたってそばにいたい”

ということ。

「あなた」が言っていた。
“「夢はかなえるものだ」”
“「強く願えば 必ず叶う」”と。

だから、主人公も「あなた」のことばに従う。主人公にとっての「夢」=「あなた」に振り向いてもらうことを強く願う。

今もずっと信頼を寄せている、本当に好きな「あなた」の言葉、実践しようじゃないか。

それは自分のわがままだってことは主人公にだってわかっている。

そんなことをしたら、「あなた」は皮肉に感じるかもしれない、迷惑に思うかもしれない、でも今度は、自分の意思を貫いて「あなた」を諦めない。
過去の“聞き分けのいい自分に今夜さよならする”ことを決意した。

ここで、主人公は過去と同じように想いが叶わない現実に失望しながらも、過去の自分から脱皮をはかろうとする。

そんな決意だけでも、彼女にとっての大きな一歩だ。
そして、STARTING OVERというこのアルバムのタイトルが脳裏をよぎった。




「聞き分けのいい自分」とサヨナラした主人公、そのあと彼女はどんな行動を取り、何を思うのだろう…?

どこか連れていって